健康ブームによって、スポーツジムやフィットネスクラブなどの施設は近年増加しています。例えば、エニタイムフィットネスやゴールドジムなどの外資系企業ジムのフランチャイズ店舗も駅前でよく見かけるようになりました。
また、高齢化における健康対策で今後も利用者が増加する見込みがあり、スポーツジムをオープンした方やこれから事業を開始したい方も多いと思います。
今回は、そんなスポーツジムやフィットネスクラブ経営の税務調査の注意点を解説していきます。
税務調査は、すべての事業家や経営者にとって、避けることができないものです。
スポーツジム、フィットネスクラブの種類や事業内容は多様化しており、売上や必要な経費、本部とのフランチャイズ契約などによって異なりますが、税務調査は基本を押さえておけば安心です。
この記事で税務調査の注意点を参考にし、準備を十分にして、税務調査を無事に乗り越えましょう。
税務調査とは
国税局や税務署の税務調査とは、3年から5年に1回程度、会社や個人事業者が税法に従って正しく税金を計算し、納税をしているかを、調査官が調査することです。
もし仮に、不適切な処理があった場合には、税法に従って、過年度の申告や納税を修正するように指導されます。
調査される税金の種類は、
- 所得税や法人税
- 消費税
- 源泉所得税
- 印紙税
など、事業にかかる税金が対象です。
多くの税務調査は、定期的に確認するために実施されるものであるため、それほど身構える必要はないと言えますが、初めての税務調査の場合で顧問税理士がいない場合は焦る方も多いと思います。
以下で説明する内容をご確認の上、税法に従って処理をし、資料を適切に保管しておきましょう。
税務調査で必ず確認されるもの
税務調査は、税務調査官の立場から考えると、年に数件調査に入るため、特別に悪質な取引を確認するための税務調査でなければ、決められた手順に従って効率的に実施されます。
一般的に確認される項目は、次の通りです。
売上関係
会社の取引の大部分は売上関係の取引です。税務調査では、まず初めに、売上の計上漏れがないかの確認がされます。売上計上漏れは重加算税の対象に繋がるケースも多いため注意が必要です。
得意先からお金が入金されたタイミングで売上を計上していると、売上計上漏れを指摘されます。
売上に限らず仕入も同じですが、税務上の売上・経費の認識タイミングは大雑把に言えば取引が完了した時になります。代金を貰った、支払った、は基本的に認識タイミングに関係ないので、この点は押さえておきましょう。
特に、期末に売上取引が完了しているが、未入金のものがありましたら、注意しましょう。
仕入、外注費の売上原価関係
仕入や外注費の取引も、売上の次に重要な確認項目です。税務調査では、期末の棚卸在庫が適切に計上されているか、取引が完了していない仕入高が計上されていないか等が重点的にチェックされます。
期末時点で売上に対応していない原価は、原価計上しないようにしましょう。
実地調査(現金、棚卸資産、固定資産)
税務調査では、必ず実地調査があります。実地調査とは、金庫や工場、店舗などを税務調査官が訪問し、調査することです。
資産として計上されていない、現金や商品、固定資産が実地調査で見つかると、売上計上漏れや商品計上漏れとなり、税務調査で指導の対象となります。
特別損益項目
特別損益項目は、非日常の取引ですので、ミスが発生しやすい項目です。例えば、固定資産売却損益、損害賠償金の損失などがあります。
必ず税務調査で確認をされますので、計上時期や取引背景を客観的に説明できるように資料を保管しておきましょう。
人件費や一般管理費
人件費の源泉所得税や、交際費と寄付金、顧問料、業務委託費などがメインで確認されます。オーナー系の会社ですと、役員社宅や社長専用車などの役員間取引でよく指導が入りますので、日頃から注意をしましょう。
また、交際費や寄付金、顧問料、業務委託費はサービスなどの取引は、形が残らない取引のため、請求書や契約書などの資料をしっかり保管し、調査で取引内容を説明できるようにしましょう。
スポーツジム経営上の注意点
税務調査の基本を解説しましたので、次はスポーツジム経営の特別な論点を確認しましょう。
具体的には、次の項目があります。
- 期末の会費売上の計上漏れ
- プリペイドなどの前受金の売上計上漏れ
- インストラクターの源泉徴収漏れ
それぞれ、順番に確認をしていきましょう。
会費売上の計上漏れ
会費売上の計上漏れとは、決算月の会費が、翌月引き落としや翌々月引き落としの場合に、売上として計上するのを忘れてしまうことです。
近年、決算の早期化で、経営者は業績をすぐに把握したいケースが多くなっています。経理システムの早期化への対応が、うまく進んでいないと計上漏れの発生原因となります。
スポーツジムの売上は、会員数も多いですし、その回収方法も様々です。
クレジット引き落としや口座振替、現金受取、その他電子決済など、会員によって会費の支払方法は異なります。
決算月の売上は、本来計上されるべき年度(施設を利用する月)に売掛金として、計上されるように、十分に注意をしましょう。
前受金(プリペイドカードや回数券、金券など)の売上計上漏れ
前受金として、お客さんから預かっているお金も、税務調査で売上と指摘されることがあります。
ジムのプログラム参加費などをプリペイドカードや金券などでお客さんから前受していて、キャンセル時に返金しない場合は、その前受金を受け取った時点で、税務上は売上を計上することになります。
なぜなら税金の考えでは、返金がされないと決まっているので、法律的や経済的に考えると、入金があった時点で、自由に使うことができ、すでにもうけが発生していると考えられるからです。
インストラクターの源泉徴収
インストラクターに対して報酬を支払う場合、源泉徴収が必要です。
会社は、「源泉徴収制度」により、報酬の支払金額から、一定の計算式で計算した所得税を差し引き、差し引いた所得税を税務署へ納税しなければなりません。
「自社の従業員ではない、外注先のインストラクターの所得税だから関係ない。」と感じるかもしれませんが、税務調査で、徴収漏れを指摘されると会社で納付をしなければなりません。
個人事業主に不慣れなインストラクターの場合、請求書に源泉所得税の記載がない場合もあります。
十分に注意して管理をしましょう。
特別項目(会費の貸倒損失)の注意点
スポーツジム経営で発生する特別損益項目や設備投資の固定資産計上は、非経常的取引のため、税務調査で指摘されやすいです。
税務上の考え方にそって、正しく処理をしましょう。
貸倒損失の計上時期誤り
税務調査では、貸倒損失の計上のタイミングを厳しくチェックされます。計上するタイミングを間違えると、指導の対象となります。
会員から会費を回収ができない場合には、貸倒損失を計上します。
実務上は、「1年基準」と呼ばれる、回収できなくなってから一年経過した時点で、貸倒損失として計上するケースが多いです。
法人税では、次の3種類の貸倒損失が認められています。
- 法律上、会費債権の消滅が決定した場合
- 事実上、会費債権の全額回収不能が明らかとなった場合
- 「一年基準」など形式上、金銭債権が回収不能となった場合
(出典:法人税基本通達9-6-1から3)
貸倒損失は、「会費の回収ができないので、諦めよう。」という判断時期が、自己判断に基づきます。
そのため、貸倒損失の計上時期を選択できてしまいます。
利益が多くでた年度に、多くの貸倒損失を計上するなど、利益操作に使われることがあります。
税務調査でも、金銭債権の回収可能性がないと判断した根拠や時期を客観的に説得できるようにする必要があります。
設備投資の資本的支出と修繕費の区分
税務調査で、スポーツジムの新規出店費用やリノベーション工事費用を全額費用計上した場合、税金の計算上は「資本的支出」として、固定資産にしてくださいと指導されることがあります。
「資本的支出」とは、固定資産の修理、改良などに支出した費用のうち、その固定資産の価値や耐久性を高めるものです。
一方、「修繕費」とは、固定資産の修理、改良などに支出した費用のうち、通常の維持管理や壊れた部分を原状に回復するための費用です。
具体的に実務では、次のフローチャートで判定をします。
(参考:国税庁 法令解釈通達7-8-1から5)
例えば、修繕費の場合はその工事が完了した時点で全額費用に計上できますが、資本的支出の場合は、耐用年数に応じて、減価償却費として費用が数年に渡って按分されることになります。
フランチャイズの費用
フランチャイズの費用を支払った場合に、税金の計算上は5年間で費用計上となります。
税金の計算上は、「繰延資産」になり、法定償却期間である5年間で費用に計上することになるためです。
税金の計算上は、「繰延資産」になり、耐用年数である5年間で費用に計上することになるためです。
ジムを開業するために必要なフランチャイズ費用(加盟金やノウハウ料など)は数百万円から、数千万円と言われています。
金額が大きいので、処理については、契約書に基づき慎重に確認をしましょう。
また、海外に対する権利金やノウハウの使用料の支払いは、源泉所得税の徴収が必要です。
原則としては、源泉所得税20.42%の源泉徴収が必要です。
ただし、国によっては、「租税条約」により、国内法に定め20%の税率が軽減され、又は免除される場合がありますので、支払前に税理士に確認をしましょう。
アメリカの場合は、一定の届出書を支払い前に、税務署に提出すると、源泉所得税は免税となります。フランチャイズ費用などの加盟金やノウハウ料など、形がない取引は注意しましょう。
まとめ
「税務調査対策でもっとも大切なこと」は、会社が税法などの法律に基づいて、適切に処理をしていることです。
税法の解釈には、グレーな部分がたくさんありますので、解釈によって取り扱いが異なる論点があります。そのため、金額が大きい取引には、法律に従って適切に処理していることを客観的に説明できるように、資料を保管しておきましょう。
また、スポーツジムの経営で主に確認される項目は次のものがあります。
- 会費売上の計上漏れ
- 前受金(プリペイドカードや回数券、金券など)の売上計上もれ
- インストラクターの源泉徴収漏れ
- 貸倒損失の計上時期間違い
- 設備投資の資本的支出と修繕費の区分誤り
- フランチャイズの費用の処理
税法に従って処理をし、資料が適切に保管されていれば、税務調査は怖いものではありません。