不動産賃貸業を営む個人事業主の経費の範囲や控除について

個人が不動産の貸付けを行った場合、「事業的規模」か「事業的規模でない場合(ここでは「業務的規模」といいます。)」のどちらに該当するかにより必要経費の範囲が変わることをご存知でしょうか。

原則として、不動産の貸付けが次のいずれかの基準に当てはまることで「事業的規模」であると判定されます。「5棟10室基準」とも言います。

  1. 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること
  2. 独立家屋(一戸建て住宅)の貸し付けについては、おおむね5棟以上であること
  3. 駐車場の貸し付けについては、おおむね50台以上であること
内容事業的規模業務
資産損失全額を必要経費
+3年間の損失繰越が可能
損失発生年度の不動産所得を限度に、必要経費にできる
※翌年以降の損失繰越はできない
貸倒損失全額を必要経費その年度の不動産所得を限度に実質的な経費認識が可能
貸倒引当金必要経費にできる必要経費にできない
事業専従者控除
青色事業専従者給与
一人につき事業専従者控除は最大50万円(配偶者86万円)、青色事業専従者給与は相当額を必要経費にできる必要経費にできない
青色申告特別控除最大55万円又は65万円を控除できる最大10万円を控除できる
利子税不動産所得の金額に対応する部分を必要経費にできる必要経費にできない

必要経費の範囲が「事業的規模」か「業務的規模」かによって適用される経費や控除が変わるため、一覧表を確認してみてください。

よくある質問としては、

  • 空室が有っても入居者の募集が行われ、すぐに貸せる状態であれば賃貸の1室に含めることが出来ます。
  • 共有でも持ち分割合で按分するのではなく、建物全体で判定します。
  • 2つ条件を合わせて判定することも可能です。
    (例:一戸建て住宅4棟とアパート6室でも、4+6=10(室)で満たすことが出来る)
  • 「おおむね」とある通り、賃貸料収入の大きさなどによっては5棟10室基準を満たさなくても事業的規模として認められる余地があります。
  • 青空駐車場(更地にロープを張っただけ、車止めの石を置いただけの駐車場や、アスファルトや砂利を敷いておらずただの更地の駐車場のこと)の貸し付けについては、おおむね50台以上であれば、事業的規模に該当します。

以下で詳しく「資産損失」や「貸倒損失」、「貸倒引当金」、「事業専従者控除・青色事業専従者給与」、「青色申告特別控除」、「利子税」の6つを説明していきます。

※ご不明点は是非、税理士法人ハンズオンにご相談ください。

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資産損失について

「資産損失」とは、賃貸用固定資産の取り壊し、除却などにより発生した損失をいいます。
引用:固定資産等の損失

賃貸用固定資産の取り壊し、除却などの資産損失については、その損失額(保険金等で補填される部分を除く)をその年の必要経費にすることが可能です。

しかし、その必要経費にできる金額が「事業的規模」の場合は全額必要経費となるのに対し、「業務的規模」の場合は資産損失の金額を控除する前の不動産所得の金額が限度となります。

したがって、事業的規模に該当すれば、この資産損失の金額を控除して不動産所得が赤字になっても、給与所得などの黒字と相殺すること(損益通算)、さらに青色申告であれば控除しきれなかった金額を翌年以後3年間繰り越して控除すること(純損失の繰越控除)ができます。

貸倒損失について

貸倒損失とは、取引先の倒産など債務者に何らかの問題が発生し、売掛金や貸付金などの債権が回収不能となった時に、その回収不能により発生した損失をいいます。
引用:貸倒損失として処理できる場合

以下の事由により未収賃貸料が回収不能となった場合には、その回収不能額を「事業的規模」の場合は、その年の必要経費にできます。

  • 会社更生法等の各種法律の規定その他法令によらない債権者集会により債権につき切り捨てられた金額や債務超過の状態が相当期間継続し、債務免除があった場合(法律上の貸倒れ)
  • 債務者の資産状況、支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合(事実上の貸倒れ)
  • 賃借人との取引停止時以後1年以上経過や同一地域内の未収賃貸料の総額が取立費用より少なく、かつ、支払を催促しても弁済がないことなど(形式上の貸倒れ)

一方で、「業務的規模」の場合は、収入金額自体をなかったものとみなします。

貸倒れの基となった収入を計上した年が前年以前であれば回収不能となった日の翌日から2ヶ月以内に「更正の請求」を行い、所得税の還付を求める必要があります。

貸倒引当金について

貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)」は、売掛金や貸付金など金銭債権の貸倒れが見込まれた場合に、その貸倒れに備えて先んじて貸倒損失を計上する経理処理を行った場合に貸借対照表上に計上される勘定科目をいいます。

「事業的規模」の場合には、一定の繰入限度額に達するまでの貸倒引当金繰入額をその年の必要経費にできますが、「業務的規模」の場合は必要経費にできません。

  • 賃借人について更生計画認可又は再生計画認可の決定などに基づいて弁済猶予等があった場合
  • 賃借人について債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その事業に好転の見通しがないことなどにより、未収賃貸料の一部の金額につき取立て等の見込みがない場合
  • 賃借人について更生手続開始又は再生手続開始の申立てや手形交換所の取引停止処分などが生じている場合

なお、貸倒引当金の設定により必要経費となった金額は、翌年の総収入金額となります。

事業専従者控除・青色事業専従者給与

事業専従者とは、白色申告を行う納税者と生計を一にする配偶者や15歳以上(12月31日時点)の親族で、年間6ヶ月以上、納税者が営む事業に専ら従事している人をいいます。

青色事業専従者給与は、青色申告を行う納税者が事業専従者と同様に納税者が営む事業に専ら従事している親族に対して支給する給与をいいます。

「事業的規模」の場合は下記の要件を満たせば、白色申告は一人につき事業専従者控除は最大50万円(配偶者86万円)、青色申告は青色事業専従者給与相当額をその年の必要経費にできますが、「業務的規模」の場合は必要経費にできません。

  • 居住者と生計を一にする15歳以上の親族であること
  • 原則として6月を超えてその事業に従事すること

さらに青色事業専従者給与については下記の要件もあります。

  • 「青色事業専従者給与に関する届出書」を原則としてその年の3月15日までに提出すること
  • その給与の額がその届出書に記載されている方法に従い、記載されている金額の範囲内であること
  • その給与の額が労務に従事した期間、労務の性質等に照らし、その労務の対価として相当であると認められること

ただし、配偶者控除や扶養控除、配偶者特別控除が受けられなくなります。なお、その給与の額は事業専従者・青色事業専従者の給与所得の収入金額とみなされます。

ちなみに、専従者も共同経営者として個人事業主(サラリーマン大家を除く)と同様に「小規模企業共済」、従業員として「中小企業退職金共済」に加入できます。

青色申告特別控除

青色申告特別控除を利用することで、種々の特典がありますが、その一つに所得金額から最高65万円又は10万円を控除するという青色申告特別控除があります。
引用:青色申告特別控除

下記の条件を満たす個人事業主が、税務署長の承認を受けた場合には、青色申告書を提出できます。

  • 「青色申告承認申請書」を原則としてその年の3月15日までに提出すること
  • 帳簿書類を備え付けて、不動産所得の金額に係る取引を正規の簿記の原則に従って記録し、保存すること
  • 青色申告書に貸借対照表や損益計算書、不動産所得の金額の計算に関する明細書を添付すること

この青色申告の場合には、「事業的規模」で下記の条件を満たすときは最大55万円、「業務的規模」のときは最大10万円を控除できます。

  • 「小規模事業者の現金基準」を選択していないこと
  • 帳簿書類を備え付けて、不動産所得の金額に係る一切の取引の内容を詳細に記録すること
  • 青色申告書に一定の事項の記載や貸借対照表、損益計算書、不動産所得の金額の計算に関する明細書を添付し、提出期限までに提出すること

さらに、上記の条件に加えて、電子帳簿保存又はe-Taxによる電子申告を行うときは、最大65万円を控除できます。

利子税

利子税とは、何等かの理由で税金の納期までに納税が困難な場合などで税務署から延納が認められたときに、利息相当額として課される税金をいいます。

下記の場合には、納付すべき所得税額の½以下の納付を翌年5月31日まで延期できます。

  • 納付すべき所得税額の½以上を翌年2月16日から3月15日までに納付すること
  • 「延納届出書」を翌年2月16日から3月15日までに税務署長に提出すること

また、延納したときは、延納期間の日数に応じ、原則として年7.3%(令和2年は特例基準割合2.6%)の割合を乗じて計算した利子税をあわせて納付しなければなりません。

この利子税のうち不動産所得の金額に対応する部分を、「事業的規模」の場合には必要経費にできますが、「業務的規模」の場合には必要経費にできません。

最後に

「資産損失」や「貸倒損失」「貸倒引当金」「事業専従者控除・青色事業専従者給与」「青色申告特別控除」「利子税」を説明してきましたが、法人化することによっても変わってきます。

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