飲食事業も個人事業主やフランチャイズ店など、働き方が増加し、会社から独立・起業をして、収入を得る人が増えています。
独立して、事業が上手くいった場合に税金の観点から個人事業主と法人のどちらが有利なのかと悩む方が多いです。
この記事では、この問題について、個人と法人で、どのようなメリットがあるか確認し、その後どのタイミングで法人に変更するのが良いのかを解説していきます。
注意点として法人化することで、社会保険料の負担が重くなることや税理士顧問料、設立費用など税金以外で各種費用が増加することもありますので、分からない方は税理士法人ハンズオン(東京都千代田区神田)でシミュレーションやご相談を受け付けております。
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個人事業主と法人の税率
所得税も法人税も、所得によって税率が異なりますので、ご自身の所得見込を把握して、シミュレーションをするのが大切です。
また、単純に単年度の儲けに対する税金を比較するだけではいけません。事業の環境によって、異なるので、税理士法人ハンズオンにご相談ください。
個人事業主の税率
2021年2月現在の個人事業主の所得税率と住民税率、事業税率は、下記のとおりです。
- 所得税の税率[令和2年(2020年)4月1日現在法令等]
所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%から45%の7段階に区分されています。課税される所得金額(千円未満の端数金額を切り捨てた後の金額です。)に対する所得税の金額は、次の速算表を使用すると簡単に求められます。
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
(出典:国税庁 所得税の税率)
(注) 例えば「課税される所得金額」が7,000,000円の場合には、求める税額は次のようになります。
7,000,000円×0.23 – 636,000円= 974,000円
※平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
- 住民税 10%
(出典:主税局 個人住民税の所得割) - 個人事業税 5%(飲食店業は第1種事業に該当します。)
(出典:主税局 個人事業税)
上記税率を単純合計すると、個人事業主の儲けには、最低約20%から最高約60%となりますが、段階的に税率が上がることや事業税の計算上事業主控除などがあるため実際かかる税金としては約15%から55%ということになります。
(4,000万円を稼いで、何も節税対策をしないと、約1,900万、つまり約半分が税金の支払いになるということです。)
法人の税率
一方、法人になった場合の税率は、次の通りで、2021年2月現在の法人税等の実効税率となります。
【中小法人(資本金1億円以下の法人)の法定実効税率】
- 所得金額:400万円以下 約21%
- 所得金額:400万円超~800万円以下 約23%
- 所得金額:800万円超 約34%
所得(儲け)によって、約21%から34%の税率です。
(4,000万円を稼いだときに、何も節税対策をしない場合は、約3分の1が税金の支払いになります。)
個人事業主の飲食業のメリット
個人事業主のメリットは、開業時の手続きが法人設立と比べ簡単で、手間やコストがかからないことです。(最初から法人として事業を開始し、事業がうまくいかず廃業した場合に個人事業主として開業・廃業するよりもコストも手間もかかってしまいます。)
個人の場合、利益が少ないうちは税金の負担が少ない
売上と利益が少ないうちは、法人税の税率に比べて、所得税の税率が低くなるので、一般的に個人事業主を選択したほうが有利になります。
事業が順調に成長するまでは、個人事業主のままで、売上と利益が増加したら、法人化する場合が多いです。
また、個人事業主で赤字の場合、所得税は発生しませんが、法人の場合は赤字になった場合でも、地方税の均等割という税金(年間最低7万円の税金の支払)が発生します。
個人の場合、事業を開始する手間やコストが安い
個人事業主の場合は、設立コストは基本かからず届出等が必要になります。
例えば法人化した場合、会社をつくるためには費用とその手間がかかります。
具体的に、株式会社をつくるには、最低でも次の費用がかかります。
- 定款の認証費用
- 登録免許税
- 資本金
上記を合計すると、最低でも約20万円の費用が必要です。(資本金は1円以上であれば、問題はありませんが、初期の設備費用や得意先との関係で金額を決めることになります。)
また、個人事業主は確定申告ソフト(国税庁のホームページ)を無料で利用できます。
個人事業主の場合には、開業当初から税理士へ依頼される方もいらっしゃれば、ご自身で経理をし、税務署の無料相談を利用して確定申告を行われる方もいらっしゃいます。
法人の場合は、決算書や申告書、内訳書などの作成が必要となり、より複雑となりますので、税理士へ依頼するのが一般的となります。
そのため、個人事業主の場合は、税務手続きの手間やコストの面でメリットがありますので、創業期は個人事業主のほうがメリットはあると考える方も多いです。
飲食店舗の新規出店にかかる個人住民税の均等割が安い
新しい市区町村に、飲食店の新規店舗を出店した場合、住民税均等割は個人の方が法人よりも割安となります。
飲食事業は、先行投資(店舗の内部造作や従業員費用、広告費用など)が他の事業よりも大きいので、すこしでも負担を軽減させたい方には、個人事業主がお勧めです。
住民税均等割りについては下記のとおりです。
- 個人住民税(令和3年時点 東京都の場合)
均等割 年間合計5,000円(都道府県分1,500円、市区町村分3,500円) - 法人住民税(資本金1,000万円以下の法人)
均等割 年間合計70,000円(都道府県分20,000円、市区町村分50,000円)
店舗が増加した場合、店舗がある都道府県・市区町村ごとに負担が増加していきます。
※標準税率のため、自治体により金額は異なりますのでご注意ください。
個人事業主と法人の差額は年間で65,000円ですが、赤字の場合でも負担しなければなりません。
社会保険料の負担
社会保険は法人から報酬を受けていれば、健康保険や厚生年金へは強制加入となります。
個人事業主は5人未満の場合は任意となります。
法人も個人事業主も社会保険に加入する場合は、社会保険料を半分負担する必要があるため、加入前に確認することをお勧めします。
法人化した飲食業のメリット
法人を設立した場合には、儲けに対する税率以外にも、多くのメリットがあります。
具体的には、退職金や非常勤役員に対する役員報酬、消費税の納税義務などです。
法人の場合は、退職金を支給できる
個人事業主の場合は、自分に対して退職金を支給できませんが、法人の場合には、自分(代表取締役等)に対して退職金を支給することができます。
退職金は、事業や給与の儲けよりも税金の面で非常に優遇されています。
具体的には、次のメリットがあります。
- 「退職所得控除」という、概算控除(20年以下は、年40万、20年超は70万円)を計上できる
- 5年超勤務すれば、所得を1/2にすることができる
例えば、20年勤務し、2,000万の退職金を支給した場合は、次のように所得600万円に税金がかかります。
- 退職所得控除:40万円×20年=※800万円
- 退職金(2,000万円―※800万円)×1/2=600万円
2,000万円の退職金を支給し、600万円にしか課税がされないので、給与や事業所得に比べて非常に優遇されています。
また、法人の場合、経営者だけでなく、ご家族の従業員や役員にも退職金が支払えますのでさらにお得です。
非常勤役員に対する役員報酬
法人の場合、配偶者や親族などに扶養範囲内の役員報酬を支払い、配偶者控除や扶養控除も受けられます。
また、個人で専従者給与を支払う場合は、税務署に前もって届出書をその支払い年の3月15日までに提出しておく必要があります。
法人の場合は、役員報酬を支払う場合でも、税務署への届出は不要ですので、手続き面も簡便的です。
法人化して、配偶者や親族に事業を手伝ってもらっている場合には、家族への役員報酬の支給を検討しましょう。
消費税の納税義務を2年間先延ばしにすることができる
個人から、法人になった場合には、2年間消費税の納税義務を先延ばしできます。
一般的には、消費税の納税義務は、2年前の事業年度の課税売上が1,000万円を超えているかで判断します。これは、個人でも法人でも変わりません。
しかし、個人から法人になった場合には、売上がリセットされ、通算されません。よって、法人を設立すると、設立前の売上はありませんので、2年間は消費税の納税義務がなくなります。
個人事業主を継続した場合には、2年前の売上高が1,000万円を超えていると消費税の納税義務が発生します。
前年の給与及び課税売上高によっては、2年前の売上高が1,000万円を超えていない場合でも納税義務が発生する場合がございますので、注意が必要です。
課税売上が1,000万円を超えたら、法人設立を検討したほうがいいと言われる一つの理由です。
消費税の税制改正により2023年10月からインボイス方式が導入されることとなったため、上記のメリットを受けるためには2021年10月1日までに法人設立が必要です。
事業譲渡と株式譲渡の消費税の取り扱い
法人の場合、他の法人などに飲食店事業を売却したい場合には、その法人の株式譲渡を選択することができますが、個人事業主の場合は、事業譲渡しか選択肢がありません。
飲食店を経営している法人の株式を譲渡しても、消費税は非課税売上のため、消費税は課税されませんが、事業譲渡の場合は、基本的に課税売上となり10%の消費税が発生してしまいます。
よってM&Aにかかる消費税の負担に着目した場合には法人化しておいた方がメリットがあります。
事業譲渡と株式譲渡の譲渡益にかかる税金の取り扱い
飲食事業を売却する場合の譲渡益に関する所得税の取り扱いにも注意が必要です。
法人の場合には、株式の譲渡をすれば手続きが完了しますので、株式の譲渡所得(分離課税)となります。
一方、個人事業主の場合は、事業の固定資産やのれん(営業権)を売却することとなるため、事業所得(総合課税)と譲渡所得となり、さらに譲渡所得についてはその資産の種類ごとに(分離課税)と(総合課税)とに区分されます。
個人事業の事業譲渡の場合には、所得税率が段階的に上がる事業所得と保有期間に応じて税率が変わる譲渡所得の税率が適用されるのに対して、株式譲渡は約20%で済みます。
具体的には、下記税率となっています。(※事業所得の税率は上記「個人事業主の税率」参照)
- 譲渡所得(分離課税)の場合
- 譲渡所得(総合課税)の場合
下記Aに対して上記「個人事業主の税率」が適用されます。
●長期譲渡所得:譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-50万円×1/2=A
●短期譲渡所得:譲渡価額-(取得費+譲渡費用)-50万円=A
※所有期間が5年を超える場合には長期譲渡所得になります。
- 株式譲渡(所得税)の場合:上場株式と同様に保有期間に関係なく、20%(出典:国税庁)
飲食業の場合、内部造作や店舗設備が多いので、事業を売却する計画についても、十分に注意が必要です。
また、飲食業大手はスケールメリットを得るために、組織再編を使うことが多いので、法人化をして株式の譲渡でM&Aをする方法は有効に機能するかもしれません。
法人化のその他のメリット
法人の場合は、個人よりも節税がしやすいと言われています。
上記以外にも次のような税金のメリットがあります。
- 事業所得の赤字:個人事業の場合は3年間の繰越で、法人の場合は、10年間の繰越ができます
- 社宅:法人の場合、代表者の居住物件を法人名義で賃貸すると、その家賃の半額部分を法人の経費にできます。個人事業の場合、居住部分は経費になりません
- 生命保険:個人の場合は生命保険料控除として12万円が限度となります。法人の場合は、保険の契約により異なりますが、支払金額が経費となります
売上1,000万円・所得600万円を超えたら法人化を検討
売上が1,000万円を超えると、基本的に2年後から消費税の納税義務が発生します。
また、所得が600万円を超えると、個人の税率よりも、法人の税率が明らかに有利となります。
社会保険料や専門家報酬、法人の各種手続きを考えても、法人化のメリットが大きいと考えられ、一般的に法人設立を検討すべき時期といわれています。
法人税と所得税の税金の考え方
法人税の場合は、所得税よりも様々な節税方法や法人税の特例の方法があります。
具体的に、会社にかかる税金と個人事業主にかかる税金の考え方は以下の図です。
(役員1人の会社と仮定しています。)
会社は、利益から役員報酬を、個人に支払います。
役員報酬控除後の会社の所得に法人税と地方税が課税され、役員報酬から給与所得控除を引いたものが個人の給与所得として、所得税や住民税の対象となります。
一方、個人事業主の場合は、所得に対して、所得控除や住宅ローン控除などを適用した後に、所得税と住民税、事業税が課税されます。
法人化は2重課税?
法人化によって、法人税等と所得税等が課税されるので、2重課税で不利になるように感じますが、
次の理由により、税金の面では有利と考えられます。
- 給与所得の給与所得控除の金額(最大195万円)が、青色申告の特別控除(最大65万円)よりも大きいため
- 個人の事業所得には、個人事業税が課税されるが、給与所得には課税されないため
- 所得がおおよそ400万円をこえると、法人実効税率が所得税・住民税率よりも低いため
個人と法人の費用範囲の違い
所得は売上-「経費」で計算がされます。
この「経費」の概念も、個人と法人では法人のほうが広いため有利とされています。
- 社宅契約により家賃について会社負担ができる
- 規定を設けることにより出張手当として日当を支給できる
- 法人契約の生命保険の費用計上額が、個人の生命保険料控除の最大12万円をこえる
このように、法人の場合は個人事業主に比べて、費用の考え方が広いです。
そのため、費用に計上できる可能性が大きく、所得を圧縮することができます。
まとめ
一般的には、売上が1,000万円を超え、所得が600万円を超えたら、法人設立により、税金を節税できると言われています。
法人設立のメリットで大きいものは、次のものがあります。
- 退職金を支給できる
- 非常勤役員に扶養範囲内の役員報酬を支給しても、配偶者控除や扶養控除を受けられる
- 消費税の納税義務を2年間先延ばしにすることができる(2021年10月1日法人設立まで)
- 経費の範囲が広い
ただし、税金以外のデメリットとして、社会保険料の負担が増加することや各種専門家費用が発生します。
法人を設立するときは、ぜひ税理士法人ハンズオンに相談いただき、事前に一緒に検討していきましょう。ご相談は無料です!
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