令和3年度税制改正:電子帳簿等保存制度の見直しについてのポイント

会計帳簿や書類の作成・保管については、昨今、クラウド化も含めた会計・業務システムが広く浸透してきていることから、従来の書面を用いた運用から、データ化されたものへと移行しつつあります。

しかしながら、請求書や領収書などの書類に関しては、書面を用いて取引する運用も広く続いており、また電子保存化へ向けた制度要件のハードルが高い部分があることから、電子保存に関する制度の浸透が進んでおりませんでした。

今回の令和3年度税制改正では、従来の電子帳簿等保存制度に関する手続きや要件について大幅に要件が緩和されたことにより、電子保存制度の導入がしやすい設計に変更されております。

このページでは、令和3年度税制改正における電子帳簿等保存制度の見直しされたポイントを中心に解説していきます。

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税制改正の背景について

税制改正の背景について

電子帳簿保存制度は、情報処理の高度化やペーパーレスが進んだことにより、会計の領域でも情報システムを利用した帳簿や決算書の作成が浸透し、経済界などの要請を受けて、平成10年度税制改正に、帳簿書類(仕訳帳や総勘定元帳など)等を対象に導入が始まりました。

その後、平成17年度の税制改正により、請求書などの一部の書類をスキャナで読み込むことにより電子化したものを保存できる制度(スキャナ保存制度)の導入も加わり、数回の税制改正にてスキャナ保存の要件緩和等も図られてきました。

今回の令和3年度の税制改正では、従来からの経済のデジタル化とともに、新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに、拡大防止への対応が迫られる中、顕在化した社会的課題やニューノーマル等を踏まえて、申告・納税等の税務手続をより一層電子化へと推進することにより、事務負担の軽減やバックオフィスの効率化などを可能にするため、帳簿書類の電子保存化に関する制度を見直したものです。

具体的には、事前手続きやシステム要件、特にスキャナ保存制度導入のネックとなっていた内部統制要件など、電子帳簿保存制度を抜本的に見直すことにより、経理の電子化による生産性向上やテレワークの推進、記帳水準の向上並びに適正な課税の実現等の観点から、その利用促進がより一層進むことが期待されています。

帳簿や書類電子保存化のメリットについて

帳簿や書類電子保存化のメリットについて

帳簿や書類の電子保存制度を導入した場合、以下のメリットが考えられます。

  • 物理的な収納スペース確保のための保管コストが、電子保存の場合は不要になる
  • 紛失や盗難のリスクが電子保存の場合は低減される
  • 作業時間の短縮による生産性向上に寄与でき、またわざわざオフィスへ出社する必要がなくなり、出張先やテレワークでの作業が可能になる
  • 電子保存の場合は、ある程度検索可能な状態に置く必要があるため、書類を探す時間が短縮できる
  • 電子データによる取引の場合も、電子保存と同様のメリットを享受できる
  • 書面利用による廃棄処理コストや廃棄に伴うCO2発生抑制に寄与できる
  • (今回の税制改正の恩典として)帳簿の電子化を導入した場合は、修正申告や更生があった場合に、過少申告加算税が5%の低減措置を受けられる

以下で、今回の税制改正による「電子帳簿等保存制度の見直し」について主なポイントを解説していきます。

 

事前手続に関しての改正ポイント

事前手続に関しての改正ポイント

従来、帳簿書類の電子保存制度やスキャナ保存制度を導入する場合、開始の3か月前までに、所定の申請書を所管の税務署長宛に提出し、承認を受ける必要がありました。

今回の改正により、承認制度が廃止されることになり、適用要件を満たせば、いつでも電子保存が開始できるようになりました。(なお、電子取引のデータ保存義務制度に関しては、従来から承認は不要です。)

 

システム要件に関しての改正ポイント

システム要件に関しての改正ポイント

帳簿書類の電子保存の要件緩和

従来、帳簿書類の電子保存のシステム要件として、真実性及び可視性の確保の観点から、

  1. 訂正・削除・事後入力などの履歴の確保
  2. 帳簿間の記録の相互関連性の確保
  3. 操作説明書などのシステム関係書類等の備付
  4. PC・プリンター等を備え付け、画面に出力できる状態にするなど見読可能性の確保
  5. 取引年月日等の条件検索が可能な状態にするなどの検索機能の確保

以上の、5つの要件を満たす必要がありました。

今回の改正により、国税庁等の職員が電子データのダウンロード要請があった場合は応じる義務が追加されたものの、特段難しい要請ではなく、従来の要件のうち「3」のシステム関連書類等の備え付けと「4」の見読可能性の確保を最低限満たせば、電子保存のシステム要件が満たされることになり、大幅に要件が緩和されました。

タイムスタンプ付与の代替手段の導入

従来、スキャナ保存の特有の要件として、日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプの付与が必須でした。

今回の改正により、要件を満たすクラウド保存など、訂正や削除を行った事実や内容を確認することができるシステム、もしくはそもそも訂正や削除を行うことができないシステムでデータ保存する場合は、タイムスタンプ付与が不要にできるようになりました。

要件を満たすクラウドシステムを導入の際は、タイムスタンプが有料オプションの場合は、運用コストの削減にも寄与します。

検索機能の簡素化

従来、帳簿書類のシステム要件だけでなく、スキャナ保存や電子取引のデータ保存義務の場合においても求められていた検索機能の確保のための要件として、

  1. 取引日付や金額など主要な記録項目により検索できること
  2. 日付または金額の範囲指定により検索できること
  3. 2つ以上の任意の項目の組み合わせた条件で検索できること

以上の3つが求められていました。

今回の改正により、検索要件の簡素化が図られ、「1」の検索項目は、「取引日付」、「取引金額」、「取引先」の3つに限定されました。

また、既述した国税庁等の職員による電子データのダウンロード要請に応じる場合は、「2」と「3」の機能要件の確保が不要となりました。

さらに、電子取引のデータ保存義務において、売上高1,000万円以下の事業者は、国税庁等の職員による電子データのダウンロード要請に応じる場合は、「1」も含めた全ての検索要件が不要となりました。

 

内部統制要件に関しての改正ポイント

内部統制要件に関しての改正ポイント

タイムスタンプ付与の日数期限

従来、スキャナ保存においては、受領者が読み取るケースの場合、受領後に本人が署名した上で読み取る必要があり、また、その後概ね3営業日以内にはタイムスタンプを付与しなければなりませんでした。

今回の改正により、付与期間を記録事項の入力期間の最長約2月以内と同じ期間まで延長されるとともに、受領者自身がスキャナにより書類を読み取る場合の署名が廃止になりました。

この結果、受領者の署名による手間が省くことができ、3営業日以内という厳しい要件が緩和され、オフィスへの帰社にこだわらず、また一定期間纏めての処理ができるようになります。

定期検査要件の廃止

従来、スキャナ保存の場合、受領から入力までの処理が正しくなされていたかを確認するため、原本とデータとの突合作業の定期的な検査の実施が求められていました。

今回の改正により、定期的な検査の実施が廃止され、従来までは検査が完了するまでは、原本の廃棄ができませんでしたが、今後はスキャナによる読み込み後、すぐに原本を廃棄することが可能になり、後述する保管コストの削減にも寄与します。

相互けん制要件、再発防止策のための社内体制整備要件の廃止

従来、スキャナ保存制度の場合、相互に牽制機能を働かせるため、2名以上での事務処理が求められておりました。

これも今回の改正により廃止となり、1名での事務処理でも可能になり、そのための人員配置などが不要となりました。

なお、事務処理に不備があった場合の再発防止策のための社内体制の整備要件も、今回の改正で廃止になっております。

 

その他の改正ポイント

その他の改正ポイント

優良電子帳簿導入による優遇措置

今回の改正では、緩和された最低限の要件を満たすだけでなく、従来までと同じレベルの要件を(検索要件は今回の改正後の要件)満たすことができている場合(優良電子帳簿)、税制上の優遇措置として、修正申告又は更正があった場合の過少申告加算税率を5%減免する恩典が定められました。

これにより、レベルの高いシステム要件を満たした企業が増加していくことが期待されています。

不正抑止のための罰則

今回の改正は、導入障壁を下げるために様々な従来の要件について、大幅な緩和を実施しています。

したがって、不正抑止を担保するための措置として、スキャナ保存制度と電子取引のデータ保存義務に限り、電子データに関連して改ざん等の不正が判明した場合には、重加算税が10%加重する罰則規定が導入されています。

 

施行日に関して

電子帳簿保存やスキャナ保存、電子取引などの要件は令和4年1月1日以降に備えつける帳簿や書類、データからが対象になります。

また、電子帳簿保存の優遇措置やスキャナ保存や電子取引の罰則規定は、令和4年1月日以降に申告期限が到来する国税からが適用となります。

 

最後に

電子帳簿保存の推進は、既述のとおり、オフォスの省スペース化やコスト削減、セキュリティの強化やテレワークの推進、環境への配慮など、様々なメリットがあげられます。

今回の改正によって、承認制度の廃止、システム要件や内部統制要件の緩和や廃止など、帳簿や請求書等の電子化に向けたハードルがかなり下がりました。

一方、電子化に関連して不正行為が把握されたときは重加算税が加重される措置が導入されるなど、罰則も厳格化されています。

施行日までまだ十分時間があることから、保存要件や罰則などルールをしっかり理解し遵守できるよう、専門家とも相談しながら、是非とも導入に向けた準備を進められることをご検討ください。

【参考資料】国税庁 電子帳簿保存法関係財務省 税制改正の概要

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